PCM手法(モニタリング・評価)のご紹介
はじめに
前回からずいぶん間が空いてしまいましたが、今回はPCM手法の残り2つ、モニタリングと評価について紹介します。
モニタリングとはプロジェクトがうまく行っているかどうかを測り、必要に応じて対策を講じる作業のことをいいます。そして、評価とはプロジェクト終了前やプロジェクト完了後にプロジェクトの生み出した価値の評価、今後に向けたプロジェクトへのアドバイス、また他のプロジェクトにも通じる教訓の導出のことをいいます。
今回話を分かりやすく進めるために、プログラミング授業改善プロジェクトを進めるという想定で話を進めていきましょう。以下がそのPDMになります。
まずはモニタリングについてより詳しく紹介します。
モニタリングの手前
プロジェクト実施の前段階である企画・立案でPDM(Project Design Matrix)を作成しました。これにより、プロジェクト目標、得られる成果やそれを実現するための活動などが明らかになります。プロジェクトでは、このPDMに従って活動を行っていきます。しかし、このまま進めるには2つ問題があります。1つめは、活動の粒度、2つめは、活動の指標です。
1つめの活動の粒度とは、PDMの活動はそのまま日々の仕事とするには大きすぎて、作業が見えないという問題です。授業改善プロジェクトでは「テキスト作成」という活動がありますが、いざ始めるとなると何から始めるか分からないと思います。
また、2つめの活動の指標とは、成果、プロジェクト目標、上位目標とは違い、活動に対して指標がないという問題です。授業改善プロジェクトでは「学生の知識・能力などの調査」という活動がありますが、何ができたらこの活動ができたことになるのかが曖昧です。これでは活動がうまく行くかどうか見通しを立てたり、遅れを解消するための対策をするのは難しくなります。
そこで、これらの問題を解決していきます。PDMに記載されている活動を、もれなく、ダブリなく、もう少し小さい1週間程度の期間でできる作業に分解します。授業改善プロジェクトでは、「カリキュラム調査」、「カリキュラム作成」、「教科書目次作成」などの作業に分けられると思います。その際に、Input、Outputをはっきりさせるといいと思います。Inputとは前提条件や先にやるべき作業、必要となる情報のことです。そして、Outputとは作業の結果得られるもので、文書や活動の結果などになります。
これによって、日々何をしていけばいいのかが明らかになり、また活動がうまく行っているかどうかを測ることができるようになります。このように活動を詳細化したものをWBS(Work Breakdown Structure)といいます。
このWBSを作る際に忘れがちなのが、プロジェクト管理自体の工数です。成果物を基準にWBSを作るとこのプロジェクト管理の作業が見落とされて、時間が足りなくなってしまうことがあります。
このWBSで作成した作業それぞれに日数や、作業時間、担当者、そして作業と作業の前後関係を設定するとガントチャートが作成できます。こんなやつですね。
こうして、具体的なスケジュールが決まった後で、プロジェクトが始動します。
モニタリングとは
ここでようやく、モニタリングの話に入ります。
モニタリングには、進捗モニタリング、目標モニタリング、リスクモニタリングがあります。進捗モニタリングでは個別の作業が想定通りのスケジュールで行えるように管理を行います。そして、目標モニタリングでは個々の活動が目標につながっていることを確認します。最後の、リスクモニタリングではプロジェクト外からプロジェクトに影響を与える問題の発生を管理します。
一つ目の進捗モニタリングでは個々の作業が予定通り行えているか、問題があればどのように解決できるかを考えます。例えば、「テキスト作成」が遅れてきている場合、突発的な遅れが原因なら残業してテキストを書く、恒常的に足りないのであればスケジュールを見直す、別の人にもテキスト執筆をお願いするなどして遅れを解消するなどが考えられます。このように、プロジェクトの進捗をチェックして活動が完了できるよう調整することを進捗モニタリングといいます。
二つ目の目標モニタリングでは活動が成果につながっているかを評価します。今回の例では、「モデル授業実施」と「若手の先生による実践」が「若手の先生の教授能力が向上する」という結果につながっているかをチェックし、問題があれば対処を行います。例えば、何度かモデル授業を行い、実践をしてもらったが、学生の授業評価が低いままの場合、なぜ思ったような成果が得られないかを考えます。例えば、私たちや先生が想定する学生の学力と、実際の学力に差があるのかもしれません。他には、私たちや先生と学生とでコミュニケーションスタイルに差があるのかもしれません。このような場合、授業内容の見直しや、コミュニケーションを活性化するなどして、活動が目標につながるように対応します。
三つ目のリスクモニタリングではコントロールできず、プロジェクトの成否に影響を与える事態が発生していないかを評価します。PDMの右端の外部条件やその他の事態が当たります。今回の例ではパソコンがなくなったり、壊れてしまうと授業に支障が出ますし、トレーニングを行った先生がいなくなってもプロジェクトの成功は望めません。このような事態に対して事前と事後での対策を行います。事前はトラブルが起きてもプロジェクトに影響が出ないように対処をすること、事後はトラブルが起きた場合にその影響を少なくすることです。今回の例では、パソコンが壊れても直せるように予備の部品を用意しておく、パソコンが壊れて台数が少なくなっても一緒にプログラミングが出来るようなカリキュラムにしておく、などの対策が考えられます。
評価について
最後に、プロジェクトの評価についてですが、これを行うのは、プロジェクト終了の少し前とプロジェクト終了の数年後です。
JICAプロジェクトでは、OECDでの共通の国際協力の評価の指標である、DAC評価5項目という、5項目の観点でプロジェクトの評価を行っているそうです。それぞれ、妥当性、
有効性、インパクト、効率性、持続性です。
妥当性とは、解くべき問題だったかどうか、解き方は合っているかという点で、これはプロジェクトの企画・立案に対しての評価といえると思います。有効性とは、プロジェクト目標が達成できているかどうかの評価となります。効率性とは資金や人材などのリソースが適切に使われたかどうか、インパクトとは上位目標につながったかかどうか、そして持続性はプロジェクト終了後もプロジェクトの効果が続くかどうかを評価します。
最後に
妥当性、有効性などは事前に指標が得られているので、判断がしやすいですが、継続性など根付いたかどうか外部から分からないものは、カウンターパートにヒアリングするなどして評価を行うことがあるそうです。
研修で評価をやった時に思い出したのが、前職で導入していたISMSの監査のこと。ISMSは情報セキュリティマネジメントシステムと言って、情報のセキュリティを保つよう組織が運営されていることを認証する仕組みなんですが、これが年に1度だったか監査が入ります。で、外部の監査員はどう調査するかというと、書面はもちろん、責任者や担当者にどういった手順で作業を行っているか、問題が起きた時にどう対処するかを聞いたり、担当者に台帳などの書面を説明させること。
今考えると、限られた時間や情報の中で評価を行う場合にはやはりこういったやり方を行うんだろうなと思いました。
以上がPCM研修で学んだことの概要ですが、演習から学んだことも多いので関心のある方はぜひ受講してみてください。
ツール紹介
今回紹介した、プロジェクト管理で役立つツールを紹介します。注意点としては、スケジュール管理を行うツールはいろんなことができて逆に迷うようなやつか、いきなりガントチャートを作るようなやつかのどちらかだという点です。本来はWBSを考えた上で、それに前後関係や担当者をつけてガントチャートを作成するのが良いと思います。というのも、いきなりガントチャートを作成すると隙間の作業や作業の前後関係などで見落としが出来てしまいやすいからです。
この点で一番良さそうなのはXMind(有償版)で、WBSからガントチャートを作れるようです。もし無料で行いたいということであればXMind(無償版)でWBSを作成し、それを元に別のツールでガントチャートを作成するという手順が良いかと思います。
ガントチャートを作成する場合は以下のサービスが利用できます。
次に、インターネットが安定しない、ファイルで履歴を取っておきたいと言った場合は以下のデスクトップアプリケーションが良いでしょう。
Excelベースのツール。Excelが入っているPCであればファイルを送れば共有できる。
オープンソースのガントチャートソフト。担当者ごとの負荷や、作業の前後関係を表した表など色々な見方で分析ができる。